運命を理解する切り口02・ナビエ・ストークス方程式
2018/07/08
前回の記事でこんなことを書いた。
世の中の現象は複雑な非線形の特性のものがほとんどと言って差し支えないが、ある一定の条件を与えたり、条件を絞ったり限定することで、本当は非線形なんだけど線形の特性に近似して計算するといった工夫が多くの工学分野で発展し実用化されている。
これの具体例として、題名のナビエ・ストークス方程式とその応用を取り上げ、さらに(インド)占星術の技法開発との類似性を考察する。
ナビエ・ストークス方程式は流体の運動を記述する方程式で、この記事は運命の「流れ」を流体に見立てた半分ダジャレの発想に基づいている。
数学の話や専門用語がたくさん出てくるので少し頭が痛くなるかもしれないがお付き合い願いたい。
3行でまとめ
・実は飛行機が飛ぶ理屈は厳密には解明できていない。けど飛行機は飛ばせる
・目に見える利益と検証可能性から、応用例の航空宇宙工学は急速な発展を遂げた
・複数のパラメーターがある(かもしれない)非線形の現象を線形に近似できるか
飛行機が飛ぶ理屈
日本航空(JAL)のホームページのコンテンツの中に航空豆知識というのがあるが、その1回目にこんなことが書いてある。
Q, 飛行機はなぜ飛ぶの?
A, (中略)そして、もう一つ必要なものは“翼”です。
飛行機が時速250キロ近いスピードを出すことにより、翼の上にも少なくとも時速250キロの空気(風)が流れることになります。
翼の上面と下面の形状の違いから、上面の空気が若干速く流れます。これによって、翼に沿って流れる空気の圧力に差が生じます。
この圧力の差の事を揚力と呼び、この力によって飛行機は浮くことができるのです。
この説明だけでは、揚力によって飛行機が浮くことを説明したことにはならない。
揚力が生まれ飛行機が浮くのは事実だが、どういう条件でどれくらいの力が発生するのかが分からないと、何トンもの重量のある飛行機を思い通りに飛ばすことはできない。
ベルヌーイの定理で説明できるというのも不十分だ。Wikipediaの同ベージ中にこのような説明がある。
・揚力とベルヌーイの定理
揚力についての一般向けの解説には、
「同着の原理」のため翼の上の流れが下の流れより速くなり、ベルヌーイの定理により翼の上の圧力が下の圧力より小さくなり、よって上向きの揚力が発生する
と説明しているものがある。
「同着の原理」とは、「翼の前縁で上下に別れた流体は翼の後縁に同着する。」という原理である。この原理により、翼の上の経路長が下の経路長より長い場合、「翼の上を流れる速さが下の速さより大きくなる」という翼の周りの流体の速度分布が「導かれる」。しかし、実際には、上面の流れの方が後縁により早く到着し、同着の原理は成り立たない。
上記は実際にそうなる(翼の上側を通った空気が、下側を通った空気と同時に到着しない)ことが実験によって確かめられている。
では揚力をどうやって求めるのかというと、その空気(流体)の運動を表す基礎となる方程式がナビエ・ストークス方程式だ。
ただし、この方程式は解くのがメチャクチャ難しい。
いくつかの条件を与えたり条件を限定することで、式中の項を落としたり無視したりし、近似方程式にする。こうすれば解きやすくはなる。
(身近な近似:円周率πはだいたい3.14、でも実際は無理数でπ=3.1415...と無限に続く)
近似方程式にしてもなお厳密に解く(解を求める)のは難しく、ここからさらに数値解析によって揚力を近似的に求める。
簡単な説明としては、翼の周囲の空間を有限個の細かいサイコロ状の空間に分割し(専門用語で"メッシュを切る"と言う)、そのサイコロの中で計算を行い、その計算結果を積み重ねて近似解を出す。
サイコロの大きさは計算機の演算性能に依存し、計算処理能力が高ければ高いほどそのサイコロの大きさを小さくできる。
サイコロ内の計算で使う近似方程式は、よく近似する(似せている)特性を持つのはもちろんだが、なるべく単純なものが望ましいのも重要な点だ。
そのほうが全体の計算量が少なくなり、計算時間を節約できる。また同じ計算量で良いなら、サイコロの大きさを更に小さくしてより精密に計算できるからだ。
そして、その計算結果はあくまで近似解(現実の値に近いが、あくまでもそれっぽい数字)なので、その計算に従った力が本当に生まれるか、その誤差がどれくらいなのかは実際にモノを作って測定をし、計算結果との誤差を必ず確認する必要がある。
上記の開発工程のイメージとしては、高校で習う積分を使った区分求積法のかなり高度なバージョン。
例えばこの2次関数のグラフとx軸・y軸で囲まれた部分の面積は200/3(66.666...)に対し、x=0~10の区間を10個に等分した棒状の面積の合計は71.5である。
これくらいの分割だと明らかに2次関数で囲われた面積とは違うし、各々の棒が階段状になっていることがわかる。
ここで、nの数をどんどん増やしていくと200/3に近づいていく。例えばn=1000にすると面積は66.72となり(実際は小数点以下もう少し続くが)、解との差は0.1%くらいまで小さくなる。
ここまで細切りに分割すると、よーく目を凝らして見れば棒部分は階段状になっているのだが、ぱっと見では2次関数で囲われた面積とほとんど同じに見える。また、本当は棒が階段状になっているにもかかわらず滑らかにつながっているように見える。
しかし、この計算を繰り返していっても棒の数を無限(∞)個にしない限り200/3にはならず、必ず誤差が生まれる。
しかし実用上は、200/3という値が計算で求められなくても、実際の測定結果と計算結果(n=1000の棒の面積の合計)の差が許せるくらい十分小さければ(揚力による飛行機の挙動を説明するのに差し支えない程度に小さければ)それでOK → 次の開発工程へ進む場合がほとんどである。
というか、飛行機の揚力のより確からしい値を求めるための計算は、自分の知る限り現在(2018年)の科学の実力ではこの手法(数値流体力学)を使うしかない。
上でナビエ・ストークス方程式の解を解くのはメチャクチャ難しいと書いたが、これがどれくらい難しいかというと、一般解を出せるか出せないか(上の積分計算でいうと正確に200/3と面積の値を求められるか)の証明に、100万ドル(約1億1千万円)の懸賞金がかけられているくらいだ。
ナビエ–ストークス方程式の解の基本的性質さえ、証明されていない。方程式の 3次元の系について初期条件が与えられたとき、滑らかな解が常に存在すること、もし存在するとしたらその解が質量当たり有界なエネルギーを持っているかということを、数学的にはいまだに証明されていない。この問題を解の存在と滑らかさの問題という。
ナビエ–ストークス方程式の理解が、乱流のとらえどころのない現象の理解という第一段階と考えられているので、Clay Mathematics Institute(クレイ数学研究所)は2000年5月にこの問題を、数学の 7つのミレニアム懸賞問題の一つとした。
最初にこの問題の解を与えたものに$1,000,000を賞金として進呈すると約束した。
「飛行機が飛べばええやん」という考えのもと、そこまで血眼になって数学的に200/3という値を計算で求められなくても、66.72の計算結果の値と実物の測定結果の差が、設計の許容範囲に収まる程度に十分小さければそれでok! 実際に飛行機は飛ばせるのだ。
これ以外にも、流体力学ではレイノルズ数(Re)など、計算で解を求めるのが難しく実験的な手法で値を確認する(せざるを得ない)ものがいくつか存在する。
飛行機が飛ぶ理屈は厳密には解明できていないというのは、机上の計算だけで揚力を完全な形で求めることが現在の科学ではできないということ。そもそも本当に完全に求められるかどうかという点すら分かっていないということ。
それでも飛行機が飛ぶのは、近似解を求める手法を作り出し、その計算結果が現実の測定結果と、許容できる誤差を含んだ形で良く一致するからである。
そして人類は空を飛び、月に行った
以前ちらっとライト兄弟のことについて触れたが、世界初の有人動力飛行に成功したのが1903年、それからわずか70年弱で人類は月面着陸を果たした。
人類が有人で動力飛行できるようになってからまだ100年くらいしか経っていない。
ちょっと考えるとこれは凄まじい技術の進歩の速さだ。
なにがここまで人を駆り立てたのか。
一番の理由は目に見える利益があるからだ。
有史以来、空を自由に、思い通りに飛ぶことは悲願だったと言ってよい。
より速く目的地へ着く、相手より早く動ける優位性というのは戦争における戦術にも大きな影響を与えた(真珠湾攻撃が特に有名)。
より遠くへ正確にモノを飛ばせる優位性のインパクトはスプートニク・ショックが証明した。
さらに、大戦後の冷戦時代から今日に至るまで国際的な経済活動にも大きな影響を与えた。
もう何年も前から、日本からアメリカ、ヨーロッパへ安価な価格(片道数万円から数十万円)で24時間以内に到着できるようになった。
加えて、この速さで技術が進んだのは以下の2つの特性が大きく影響している。
(1) 流体の運動を方程式で記述できる(理屈を説明できる)
流体の運動の基礎となる前述のナビエ・ストークス方程式そのものは19世紀の時点ですでに存在していたのが大きい。
(wikipedia:アンリ・ナビエ、ジョージ・ガブリエル・ストークスを参照)
たとえ解が分からなくても、モノを作っての試行錯誤の実験と計算の突き合わせを繰り返すことで、ある一定の決まった条件下ではそれこそ力技で手計算でも近似的に計算できる手法を編み出した。
そこから先の進化は計算機(コンピューター)の急速な進歩の恩恵もあいまって、極めて速かったのは周知の事実。
(2) 実験で再現できる(他人の成果を検証できる)
再現性も欠かすことのできない要素だ。
同一条件で実験すれば、誰が行っても(もちろん自分がやっても)同じ結果が得られるというのは、当たり前に聞こえるかもしれないが現代科学における大変重要な特性である。
例えば風洞実験では、測定する対象が同一であり、測定時の条件(翼の固定用の冶具、試験装置、雰囲気温度、湿度、大気圧、その他諸々)が一緒であれば同じ結果が得られる。
この特性があるからこそ、違う結果が得られた場合はその原因を特定することができる。
翼の固定用のボルトが緩んでいた。
試験装置の調子が悪かった、故障していた。
前回の実験は晴れの日で気圧が高かった(高気圧だった)が今回は雨の日で気圧が低かった(低気圧だった)。
これら原因究明の場合分けはすべて、実験の再現性の確かさ、つまり検証可能性を担保にしている。
(インド)占星術はこうはいかない
前置きが長くなったが、いよいよ占星術とナビエ・ストークス方程式との比較を行う。
目に見える利益があるか?
これは各人の価値観に大きく依存する。
飛行機のように、早く、安全に、しかもより安く移動できることが多くの人の利益になることは明々白々だし、航空宇宙工学の技術発展の歴史がそれを物語っている。
しかし、(インド)占星術の特徴の一つである未来を予測できることが、万人にとっての目に見える利益かと言われるとかなり微妙だ。
世の中には喉から手が出るほど未来がどうなるか知りたがっている人がいる一方で、全く興味がない人がいるというのも当然だし、自分もその考えは理解できる。
特にインド占星術を学んでいると、人間は一定の程度でネータル(出生時)のホロスコープおよびダシャー・トランジットに支配されるがままに動く、まるで半ばそれらに基づいて行動する操り人形ではないかと錯覚するような経験をどこかでするはずだ。
しかし一方で、私感だが、「誰にも未来はどうなるかなんて分からない。だから人生は面白いんだ」という考えに大なり小なり共感する人は多いのではないかと思う。占術を信じない人は大概このような思いのもと行動しているのではないか。
そしてそれは、占星術師としての立場から言っても半分正しいと考えている("半分"というのは言葉のアヤで実際どれくらいの割合かは分からない)。
この部分については少し後の方の記事で詳しく話したい。
方程式で記述できるか?
できてたら苦労はしねーよ、という話。
一方で、自分が死ぬまでに成し遂げたいと狙っている研究成果でもある。
ご存知の通り、出生時のホロスコープの静的な要素だけでも以下のパラメーターが挙げられる。
・九陽(太陽、月、水星、金星、火星、木星、土星、ラーフ、ケートゥ)
・アセンダント
・各惑星とアセンダントの星座および在住する度数(ポジション)
・月及び各惑星のナクシャトラ
・各惑星の支配室
・アスペクト
・コンジャンクション
・星座交換
・アシュタカヴァルガ
更に、動的な要素として以下のものがある。
・ダシャー
・トランジット
・各惑星の星座移動時のアシュタカヴァルガの点数変動
以上の要素の作用反作用の振る舞いから、近似式でも良いので各惑星のコンビネーションがおよぼす力を定量的に記述できる方程式のようなものを作ることができれば、(インド)占星術の技法開発及び発展に大きな寄与ができると考えている。
ただし、その方程式は多分ナビエ・ストークス方程式やその近似方程式より複雑なものだろう。
再現性はあるか?
前述の方程式化よりも、多分これが一番の問題。
この問題が付きまとう限り、(インド)占星術は永遠に現代科学の一部分として認められない。
結論から言えば、(もし再現性があったとしてもそれを)確かめられないと断言できる。確かめられないということは、再現性があることを証明できない=再現できないと言っていることに等しい。
このことも、今後の記事で説明したいと思う。
所感
(なぜそうなるのか、その有りようが完全には分かっていない)複雑な非線形で表される現象に対し、そこに特定の条件を与えたり条件を限定することでコンピューターで計算可能な状態まで簡略化し、実際にその成果が世の中で役立っている技術の一例を挙げました。
「実は飛行機が飛ぶ理屈は厳密には解明できていない。けど飛行機は飛ぶ」の部分は、Yahoo知恵袋でベストアンサーを見つけたので、もし興味があればこれも併せて読んでもらうことをお勧めします。
飛行機が完璧に飛ぶ原理は完璧100%には解明されていないのは本当ですか?
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1146616751
漫画だと、以下の本がおすすめです。飛行機のほかに、iPS細胞について触れられています(漫画の話の筋はiPS細胞がメイン)。